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東北大学名誉教授の地上気象観測につきまして0342332942/03-4233-2942

商号又は名称(カナ) カブシキガイシャ エージェントシティ
商号又は名称(漢字) 株式会社 Agent City

1. はしがき
私たちは自然を理解するための道具として計算機や
観測機器を使う. 計算機を動かすプログラムは人間が
つくるため, 計算機で得られる結果は人間の頭の中に
あること以上のことは出てこない. 大自然は, 人間よ
りはるかに大きいのである. はしょって言えば, 計算
機は頭の中を整理するための道具である.
一方の観測では, 未知の現象を摑む可能性を持つ.
しかし観測機器も人間が作るので, 万能ではなく, 狂
いもある. 新発見なのか, 機器の狂いによる見かけ上
の現象なのか, 区別し難いことがある. 機器の特性
(製品に表示された性能を鵜呑みにしてはならない)
や, 自然科学の基礎・原理がよくわかっていなけれ
ば, 優れた観測者・研究者にはなれない.
基礎・原理をよく理解せずに, 複雑な計算プログラ
ムを動かしている者はいないか? 同様に, 観測機器
の特性, その他の基礎・原理も知らずに観測する, あ
るいは簡単に入手した観測データを整理している者は
いないか?
地上観測の意義
地上では人々の暮らしと食糧生産が行われている.
現状の把握と将来予測のために, 過去から現在までの
地上気象を知らねばならない. 衛星による地球観測や
レーダ観測でも, 地上における実測をもとに正しい情
報が得られる. 高層気象観測では気球放球時の地上の
観測値が基準になる.
重要な代表地点
地上のあらゆる地点では観測できない. そのため代
表地点で観測が行われており, その資料をもとに経験
則や理論にもとづき広域分布を知る必要がある.
観測値は正直
温度とは温度計の温度のこと, 風速とは風速計の回
転数のことであり, それらは正しい大気状態を表して
いるわけではない. 観測資料を上手に利用するには,
示度が何を表すかを理解していなければならない.
観測誤差を少なくするために測器の開発と観測方法
が工夫されてきたが, 観測値には誤差が含まれる. 測
器は多種類があり, 時代によって変更されてきた.
まず, 既存のデータから誤った結論を出した例を示
しておこう. 第1図は函館における過去70年間の年平
均風速の経年変化である. この図から, ある人は,
「風速は約50年の周期変動をしている」と読み取るだ
ろう. また他の観測所の例であるが, 破線で囲む期間
(1)に示されるように風速が時代とともに減少する
ことから,「風速減少はアジア域における大気循環場
が近年変わってきていることを表し, 温暖化の影響で
アジア・モンスーンが弱くなったからである」という
ような発表が国際誌にも掲載されている. 一方, 実線
2012年3月
―No.11
썻쎄쎃썻:썿쎄썼(地上観測;風速;気温;湿度;放射;蒸発;雨量)

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商号又は名称(カナ) カブシキガイシャ エージェントシティ
商号又は名称(漢字) 株式会社 Agent City
主たる事務所(本店)の所在地 東京都渋谷区鶯谷町7-12


地上気象観測
近 藤 純 正웬


웬Junsei KONDO, 東北大学名誉教授.
Ⓒ 2012 日本気象学会
第1図 函館における1935年以降の70年間の年平
均風速の経年変化. 図中の(1), (2)
は本文を参照.
(2)で示す範囲に示されるように, 近年風速が増加
しているのは「温暖化で台風が大型化する傾向になっ
た」という発表もある.
真実はそうではない. 第1図は風速の見かけ上の変
動であり, 時代によって観測所が移転したこと(1940
年), 風速計の検定定数が変更されたこと(1949年),
風速計の種類が変更されたこと(1961年, 1975年,
1982年),観測所の周辺に建物が多くなり風速が弱まっ
たこと(1960~1990年), 風速計の設置高度が高くな
り(1992年以降)風速が強く観測されるようになった
ことを表している.
2. 風速
機械的風速計
半球形の風杯が4個からなる4杯式風速計(ロビン
ソン風速計)は1960年頃まで利用されてきた. 風杯が
風圧を受けて回るときの回転トルクをよくするために
回転軸から風杯までの距離が長く作られている.
一般に, 器械的な風速計の追従性は, 風速が増加す
る加速時が減速時よりもよく(時定数が短い), 平均
風速は実際よりも強めに観測される. 4杯式風速計
慣性が大きく, 減速時に風が止んでも回転を続ける傾
向があり, 過大な平均風速を記録する.
気象官署で1960年ころから使われるようになった3
杯式風速計は回転半径を短く作るなどの工夫により,
回り過ぎを少なくした. 1970年代から風車型(プロペ
ラ型)が使われている. 観測所により異なるが1980年
代までは, 風圧に比べ重い発電機を回す構造のため,
微風時は平均風速を弱めに観測している. それ以後
は, パルス式となり, この傾向はなくなった.
定常的な気象観測とは別に, 1950年代から地上付近
の風や気温などについての研究が盛んになり, 軽量の
3杯式風速計が使われるようになった.
超音波風速計
音波が風で流されることを利用した超音波風速計
ある. 音波の発信部から受信部までの距離は0.1~0.2
mほどで短く, 細かな風速変動を観測できるが, セ
ンサーに水滴などが付着したり, わずかな変形が音波
の伝播距離を変え, 観測の誤差となる. 3次元的に組
み合わせれば, 平均風向成分, それに垂直な横方向成
分, 上下の鉛直成分を観測できる.
日本では, 超音波風速計は1960年代から使われるよ
うになり, その当初から筆者は利用してきた. 風速ゼ
ロの状態をつくるのに0.8m立方ほどの木箱に3次元
風速計のセンサーを入れてゼロ点を調節する. 箱の中
でも風速ゼロをつくることは難しい. 発信部の素子は
超音波で振動し熱を持ち, 対流により一筋の上昇流を
生じる. その上昇流に受信部が影響されないよう置き
方に注意した.
発信・受信部の素子も, それらの支柱も対称形に作
られているが, 技術的限界により完璧に対称形にはで
きていない. それゆえ, 3次元に組み合わされたセン
サーを風洞に入れて, 仰角と方位角を変えながら出力
を検定した. こうした検定を行い, データ処理する者
は, 現在でもほとんどいないのではなかろうか.
多芯ケーブルとコネクターははんだ付けされてお
り, はんだが時々外れる. センサーからの多芯ケーブ
ルは数カ所のコネクターを経て回路までつながってい
る. 外れた箇所を探すのに時間がかかり, 観測者は計
器に振り回される有様であった. ケーブルと電子回路
は時々ノイズを拾い, 風速変動に混じって記録され
る. 記録からノイズを除去するための前処理に時間を
要した. 記録は磁気テープと記録紙の両方にとり, 記
録紙上でノイズの判別を行い, どういう変動をノイズ
と見なすべきか検討した. 現在では, はんだ付けが外
れるような故障はないが, ゼロ点のチェックや仰角・
方位角特性の補正は行わねばならない.
風速に限らず他の要素でも同様に, ノイズ・誤差と
真値を見分けることが重要となる. それには理論的な
考察も必要となる.
風速計の距離定数
機械的風速計の時定数は風速が強くなるほど短く
なる. 時定数と風速の積を距離定数という. 風が距離
定数の長さだけ走れば, 風速計の回転数が定常的フル
回転時の63%(=1-1/e)になる. 距離定数が長い
風速計では瞬間的な風速(最大瞬間風速)を弱めに記
録することになる. 距離定数は, 3杯式風速計やプロ
ペラ式風速計では10m前後, 研究用の軽量3杯風速
計や軽量の風車型風速計では1~2m前後である.
3. 気温
気候解析上の注意
長期間の気候資料では, 時代によって観測方法と統
計方法が変更され, データは均質でない.
放射の影響
センサーに及ぼす放射の影響として, 日中は日射の
影響により高めの温度を, 夜間は(上空の低温大気か
らの)大気放射の影響により低めの温度を観測する.
地上気象観測
〝天気" 59. 3.
166
この誤差を小さくするため, 温度センサーに当てる通
風速度は大きく, センサーの寸法は小さく作る. しか
し, 小さなセンサーでは, 細かな気温変動(瞬間値)
を観測するので, 通常の観測には適さない.
太陽の直射のみ防ぎ, 散乱日射と反射日射を受ける
場合, 誤差の目安は次の通りである. 風速=0.1m/s,
1m/s, 10m/sとし, センサーを直径10mmの球とし
たとき, 誤差はそれぞれ5℃, 2℃, 0.7℃となり,
センサーの直径を1mmの球とした場合の誤差は1℃,
0.5℃, 0.2℃となる. 正確に観測したい場合は, 直射
除けに加えて, さらに2重の通風筒に入れる必要があ
る(近藤 1982).
温度センサーの時定数
時定数は, センサーの質量, 空気と接する表面積,
体積熱容量, 空気の体積熱容量および熱交換速度を含
む熱収支式から求められる(近藤 1982, 3章).
第2図は円柱状センサーの体積熱容量が水に相当す
る場合である. 通常の温度計に使われている金属やガ
ラスの体積熱容量は水の約半分であるので, 縦軸の時
定数は1/2となる. また, センサーが近似的に球と
見なされる場合は, 球の熱交換速度が円柱に比べて約
2倍あり, 時定数は円柱の1/2~1/3となる.
4. 湿度
湿度計の種類
自記記録用に毛髪湿度計がある. 湿度によって毛髪
が伸び縮みする性質を利用したものである. 筆者が大
学院生のころ調べた結果によれば, 誤差は±5%程度
ある. それゆえ, 自記記録する場合は, 時々, 別の測
器でチェックする必要がある.
最近では高分子膜湿度計が使われるようになった.
これは高分子膜の吸湿によって誘電率つまり静電容量
が変化することを利用したものである.
古くから乾湿計によって湿度が観測されてきた. こ
れは温度計にガーゼを巻き水で湿らせると, 温度(湿
球温度)が下がる原理を利用したものである. もう一
方の温度計(乾球温度)との温度差から湿度(水蒸気
圧)を計算する. その計算式に含まれる定数のことを
乾湿計定数という.
気象官署では1950年ころ以前は乾湿計に風を当て
ず, 自然のままに設置した乾球・湿球温度から湿度を
求めていた. 1950年ころ以後は, 乾球・湿球を通風装
置に入れ, 風を当てて観測するようになった.「アス
マン通風乾湿計」が多方面で利用されている.
乾湿計定数
乾球・湿球の温度差が飽差(=飽和水蒸気圧と水蒸
気圧の差)に比例する. この温度差に乾湿計定数を掛
け算して飽差を求め, 水蒸気圧を知ることができる.
乾湿計定数として, 多種の値が提案されてきた. そ
のうち日本では, 非通風式に対してアンゴー式が, 通
風式に対してスプルング式が用いられる. 非通風式の
観測時代に求めた湿度と, 通風式の観測時代に求めた
湿度は, 全体として大まかには連続したデータである
が, 細かくは不連続で補正しなければならない.
つまり, 乾湿計の湿球温度は後述するように熱収支
計の一種であり, その温度は大気中の湿度のみなら
ず, 気温や風速(熱交換速度), 放射の条件によって
変化し, 熱交換速度は物体の寸法によっても変わる.
筆者が大学院生の時, 熱収支の原理で調べると, 湿
球の形状(感部が球状の Fuss型, やや長めの Assmann型)のほか, 風速, 気温, 現実には放射の影響
も受け, 乾湿計定数は一定ではない.
第2図 風向に垂直な円柱状温度センサーの時定
数と風速の関係, パラメータは直径. た
だしセンサーの体積熱容量=4.2×10원
J/Km웍のとき(近藤 1982).
167
2012年3月
地上気象観測
非通風式用のアンゴー式も不完全なことがわかり,
その時代に求められた相対湿度は通風式時代の値に比
べて, 低温時に1~5%高めの湿度, 高温時(ただし
相対湿度>40%)に2~4%低めの湿度として記録さ
れていることがわかった.
5. 顕熱と水蒸気の鉛直輸送量
風速の細かな変動(乱流)によって, 地上では鉛直
方向に熱が運ばれている. これを顕熱輸送という. 地
表面温度や気温の変化は, 放射熱のほかに顕熱輸送に
よって起こる現象である. 日中の顕熱輸送量は地面か
ら上向きに, 夜間は下向きに運ばれる.
超音波風速計と時定数の小さい気温センサーを組み
合わせて各瞬間の鉛直流と気温を10~30分間連続測定
すれば, その間に運ばれた顕熱輸送量がわかる. さら
に時定数の小さい湿度センサーと組み合わせれば, 水
蒸気の鉛直輸送量が観測できる. 地面付近では, 水蒸
気の鉛直輸送量は蒸発量に等しくなる.
時定数の小さい湿度計として, 赤外湿度計がある.
これは, 吸収が強い波長範囲の赤外線が水蒸気によっ
て吸収されることを応用したもので, 発信部から出た
赤外線が, 光路上の水蒸気量が増えれば受信部に届く
量が減るわけで, この変動量を測る測器である.
次項の放射量も含め, 熱や水蒸気などの物理量の鉛
直輸送量の測定精度は, 風速や気温や湿度の場合と比
べて一般によくない. 特に注意深い観測でなければ,
5~10%程度の誤差があると見なされる.
6. 放射量
測定原理
(1)受感部が平衡状態になったときの温度(基準
の温度からの上昇量)を測る方法と, (2)過渡的な
温度の上昇速度を測る方法がある. 原理(1)の例と
して, 黒色塗装された受感部と放射計内の基準点の温
度差を測る方式の放射計がある.
受感部の温度が風の影響を受けないよう, 透明カ
バーで覆う. ガラスは長波放射(赤外放射)を透過し
ないので, 長波放射計では長波を透過するポリエチレ
ン薄膜などを用いる. 厳密に言うと, 完全に透明なカ
バーはなく, 日射・大気放射の一部を吸収しカバーの
温度は変わり, その温度からの放射量が受感部に入
る. カバーの温度は風速の影響を受ける. これが観測
の誤差となる.
第3図は原理(2)に基づく直達日射計の模式図で
ある. 太陽光線が受感部に当たるときは, 同時に太陽
光線が入口付近の穴を通って指定点(図の右下の点)
に当たることを目で確認できるように作ってある.
受感部の温度は時間と共に上昇して平衡状態に達す
る. そのときの温度上昇量は日射量に比例する. 第4
図は受感部の温度上昇の時間変化である. 初期状態か
らしばらく経つと, 受感部と周囲との温度差は大きく
なり受感部からの放熱が増加しやがて平衡になる. 受
感部からの放熱量は諸々の条件に支配され複雑になる
ので, 温度上昇が直線的に増加する初期時刻のころの
温度上昇率を測れば測定精度がよくなる.
自作の直達日射計
例えば, 180秒(3分)までの温度上昇量を測って
直達日射量を求める. 温度上昇量と日射量の関係は,
あらかじめ基準の日射計によって検定する. 簡便器で
は直達日射量の実験式(近藤 2000, 付録 E)による
計算値を使って検定定数を決める.
筆者は第3図に示す直達日射計を自作し, 冬のガラ
ス窓に着いた露による日射の透過率を測ったことがあ
る. 乳児浴槽用の温度計の受感部を日射計の受感部と
して利用した. それは黒に色づけされたアルコール温
度計で, 長さ150mm, 0~50℃用, 受感部の長さ15
mm, 直径4mmである.
測定時は床に座り, 日射計の筒は両足で挟むと数分
間は完全に太陽の方向に向けていられる. 時計の秒針
を見ながら, 30秒間隔で温度計を読み取り, グラフに
プロットし, その勾配から直達日射量を求める.
第3図 直達日射量を測る原理. 受感部に短い円
柱の銀を用いた銀盤日射計がある.
〝天気" 59. 3.
168 地上気象観測
放射温度計
放射温度計は, 物体がその温度に応じて放つ長波放
射量を遠隔的に測って物体温度を測る測器である. 衛
星や航空機から地球表面温度や雲頂温度が測られてい
る. 地上では少し離れた場所の物体や地面の温度を測
ることができる. 地上から厚い雲に向けて測ると雲底
の温度が示度となる.
長波放射は水蒸気, 二酸化炭素などにより, 吸収・
射出があるので, 吸収・射出の少ない波長範囲の放射
量を測る. 吸収・射出が少ない範囲を透過するフィル
ターが取り付けられている. 測器によってフィルター
の透過特性は異なる. 市販品として8~12μm, 8~
16μmなどがある. 広い波長範囲を用いれば, 受信す
るエネルギーが大きく感度はよくなるが, 吸収・射出
の波長範囲の放射量も多く含むようになり, 誤差が大
きくなるという欠点をもつことになる.
完全に透過する波長範囲はないので, 放射温度計と
対象物の距離が数十m以上になると, 測定されるの
は途中の気温と対象物体の温度の中間温度となる. 短
距離なら対象物体の温度に近いが, 距離とともに示度
は途中の気温に近づいていく.
放射温度計の精度を上げるために, 水温を測って検
定する(第5図). 水は完全な黒体でなく放射を反射
し, その反射率は水面に垂直のとき小さく入射角度と
ともに大きくなる. 注意として, (1)放射温度計を
水面に向けるとき垂直にする. (2)野外では, 水面
はその直下の深さ10mm程度の水温より0.1~0.5℃
ほど低温になるので, 水を撹拌しながら検定する.
(3)反射除けを使う. 反射除けとして, その瞬間,
自分(着衣)が容器に覆いかぶさってもよい.
7. 蒸発量
放射計に限らず, 熱線風速計, 温度計, 乾湿計, 蒸
発計など, そのセンサーの温度, あるいは蒸発量を測
る測器は, すべて熱収支計である. 熱線風速計の温度
(電気抵抗値)は風速以外の条件に影響され難く工夫
してあり, 放射計は放射以外の条件, すなわち風速な
どの影響を受けにくく工夫してある. それでも, 多少
なりとも他の要素の影響を受け, それが誤差となる.
蒸発計は, 容器に入れた水の減少量(蒸発量)を測
る測器で, 大気の乾湿, 大気汚染による日射量の減
衰, 観測露場の地面付近の風速など, 総合的な環境パ
ラメータを知るための測器と考えてもよい.
日本の気象官署では小型蒸発計(直径20cm)は
1965年ころ, 大型蒸発計(直径1.2m)は2002年に観
測を中止したが, 外国や他機関では継続して観測して
いるところもある. 小型蒸発計の蒸発量は湿った地表
面の蒸発量の目安となり, 浅い湖からの蒸発量の約
1.5倍である. 中国の小型蒸発計は地面から離れた台
に設置され, 風当たりがよいので, 日射量など他の条
件が同じ場合, 日本の蒸発量の1.25倍となる.
気象庁の観測法では, 蒸発計の水が氷結したときは
氷を水に取り換える. これは熱(融解熱)を人為的に
加えており, 冬季の蒸発量を大きめに観測することに
なる. 資料の利用に際し注意が必要である.
世界的な話題
蒸発計蒸発量が世界的に減少傾向にあることが水文
気候の分野で話題になったことがある. 筆者は, この
傾向は広域気候の問題ではなく, 観測所の周辺に建築
第4図 時定数が600秒の物体の温度上昇. 点線
は平衡状態のときの温度上昇が20℃, 破
線は10℃の場合.
第5図 放射温度計の簡単な検定法. 反射除けカ
バーは, 放射で加熱(日中)または冷却
(夜間)しても水面側に影響しないよう,
熱伝導の悪い材質(ダンボールなど)で
つくる.
169
2012年3月
地上気象観測
物等が増えて観測露場の風速が弱まったために生じた
現象と考える. 風速計の設置高度に変化がない観測所
でも風速が弱くなる傾向があり, 都市では都市化によ
る気温上昇がある. これと同じように, 観測所の局所
的な環境変化問題である.
8. 降水量
雨量計の受水口の断面上に降る降水粒子(液体降
水:雨滴, 固体降水:雪片, あられ, ひょう)のすべ
てが雨量計に入るわけではない. その捕捉率は風速が
強くなるほど低下し, 降水量は少なめに観測される.
1980年代のこと, 豪雪地帯の岩手県北上川支流の水
収支研究の目的として, 和賀川湯田ダムで降水量の
資料を見せてもらったところ, わずかの降水量しか観
測されていない. 雨量計の設置場所を聞くと, ダム管
理事務所の屋上であり, 降雪粒子は風でほとんど吹き
飛ばされて雨量計に入らない. 現実には, その周辺地
域は深い積雪で覆われていた.
後日, 降雪時の雨量計の捕捉率に関する論文を調べ
ると, 風速が6m/s以上では捕捉率は0.3以下であ
る. 風速と捕捉率の実験式を作り, 冬の降水量は補正
することにした. 中国の降雪地域の熱収支・水収支研
究を行ったとき, この補正により降雪量, 融雪量, 蒸
発量などを数年間連続して計算し, 積雪が消える消雪
日の予測ができた.
最近, 捕捉率について中井・横山(2009)は自らの
観測も含め, いろいろな受水器について捕捉率の研究
をしている. 捕捉率は雨量計の受水器の形状によって
も変わる. 第6図はそれをもとに作成した受水口付近
の風速と捕捉率の関係である. 実線で示す溢水式は,
雨量計の周りに円筒形の風除けを取り付け, 風の影響
を少なくしてあり, 改善は見られるが, それでも5~
10m/sの強風時には降水量は80~90%(雨), 40~60
%(雪など固体降水)しか観測されない.
雨量の観測は, 以前は自記記録装置を観測小屋に置
き受水器は小屋の屋根にあった. 最近は, 雨量計は地
面付近に設置するようになり, ごく最近は, ほとんど
の雨量計に風除けを付けるようになった. それゆえ,
降水量が長期的に一定としても, 観測される値は時代
とともに増加することになる.
このことを知らずにデータ解析し,「温暖化によっ
て降水量が増加している」という論文を発表する者が
いるかもしれない. この発表を聞き, 計算機で気候予
測を行い, 温暖化すれば降水量が増えるという結果を
出す者も出るかもしれない.
9. むすび
気象資料に限らず, 情報は鵜呑みにせず, 各種の情
報間に矛盾がないか, 物理法則に矛盾していないか吟
味して利用するよう心がけよう.
現在の防災科学技術研究所の前身・国立防災科学技
術センターの所長をされた菅原正巳氏は河川流出量を
計算するタンクモデルで有名である. 流域の降水量と
貯留量と流出量が矛盾しないように作られている. か
つて, 途上国で測定された流出量のデータのうち数十
%が偽であったことを見抜ぬき指摘すると, その国の
役人は「世界銀行から金を借りるのに, 資料が揃って
いないと, いけないので……」とこたえ, 平然として
いたという(菅原・近藤 1993).
参 考 文 献
近藤純正, 1982:大気境界層の科学. 東京堂出版, 219pp.
近藤純正, 2000:地表面に近い大気の科学. 東京大学出版
会, 324pp.
中井専人,横山宏太郎,2009:降水量計の捕捉損失補正の重
要さ―測器メタデータ整備の必要性―. 天気, 56, 69-74.
菅原正巳, 近藤純正, 1993:「タンクモデルと共に」,「面
白かったモデル生い立ちの話」(往復書簡). 水文・水資
源学会誌, 6, 268-275.
第6図 雨量計受水口付近の風速と降水粒子の捕
捉率, 上図:液体降水, 下図:固体降水
(中井・横山(2009)に基づき作図).
〝天気" 59. 3.
170 地上気象観測